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断熱等級が新設!必要な断熱性の見極め方



今までは断熱等級の最高等級が「4」でした。


2022年以降、断熱等級としてさらに上位グレードである「5」「6」「7」が新設され、基準自体の見直しの動きがあります


今回は、新しい断熱等級の基準にフォーカスして冷静に分析していきます。


最高等級が設定されると、最高等級にしたい…!と思うかも知れませんが、地域の気候などを考慮して「目的とコストのバランスのよい住宅性能」を考えていきましょう。


それでは、まず記事のポイントをみていきましょう。


・今までは断熱等級4が最高でしたが、5~7のランクが設定され断熱等級7が最高等級に


・断熱等級6ではHEAT20のG2グレード、断熱等級7はHEAT20のG3グレード。


・2022年秋ごろから断熱等級6・7は正式に運用される見込み


・一般地域では断熱等級5~6がコストバランスが良い断熱レベル。

 正直、寒冷地でなければG3グレードはコストバランスが悪くなってくる。


1. 新設される断熱等級はZEH・HEAT20と同じ

2021年までは、省エネ基準としては断熱等級1~4までを公式の指標としてきました。


今回、経済産業省・国土交通省・環境省の3省が合同で運営する「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」によって、断熱に関する基準の見直しが決定されました。


みなさんが一番、気になっている等級をまずは紹介していきましょう。


等級

UA値 ※一般 6地域

運用開始時期

等級4

0.87以下

現行基準

等級5(新設)

0.6以下(ZEH相当)

2022年4月1日 施工予定

等級6(新設)

0.46以下(HEAT G2相当)

2022年 秋ごろ

等級7(新設)

0.26以下(HEAT G3相当)

2022年 秋ごろ

※UA値 数値単位:W / m2・K


このように、建築業界では一般的な基準として市民権を得ていたHEAT20のG2・G3グレードが、遂に国の基準として運用されていくわけです。


今後のスケジュールとしては、以下の通りです。

2022年4月

省エネ基準の新基準設定(断熱等級5=ZEH・G1の設定)

2022年秋ごろ

省エネ基準の新基準設定

(断熱等級6=G2、断熱等級7=G3の設定)

2025年

省エネ基準自体をZEHレベルに引き上げる

2030年

温室効果ガスを46%削減(国としての目標)

新築は全棟ZEHを標準としていく


2050年

カーボンニュートラルの社会全体での達成

上記のように段階的にレベルを上げていくような方向性になっています。


まず直近の動きとしては、2022年4月1日の施行を予定している「断熱等級5」の新設です。


断熱等級5は、現行の断熱基準に置き換えると「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の基準」に即した断熱基準です。


基準となるUA値は以下の表にてご確認ください。

地域区分

地域の目安

改正省エネ基準(H28年)

ZEH基準(=等級5)

1地域

北海道

0.46

0.40

2地域

北海道

0.46

0.40

3地域

青森県など

0.56

0.50

4地域

福島県など

0.75

0.60

5地域

長野県など

0.87

0.60

6地域

東京都など

0.87

0.60

7地域

九州など

0.87

0.60

※UA値 数値単位:W / m2・K


そして、参考としてHEAT20のG1・G2・G3グレードのUA値も掲載しておきます。

地域区分

地域

HEAT20 G1

HEAT20 G2

HEAT20 G3

1地域

北海道

0.34

0.28

0.20

2地域

北海道

0.34

0.28

0.20

3地域

青森県など

0.38

0.28

0.20

4地域

福島県など

0.46

0.34

0.23

5地域

長野県など

0.48

0.34

0.23

6地域

東京都など

0.56

0.46

0.26

7地域

九州など

0.56

0.46

0.26

※UA値 数値単位:W / m2・K


このように、改正省エネ基準を上回る基準ができることは歓迎すべきことです。


しかし、なぜ基準を見直す必要があったのか?という点について、引きつづき見ていきましょう。



2. 基準を見直す理由は2つ

基準自体を引き上げる理由としては、2つ考えられます。


1つは、業界全体の断熱レベルに対する意識のボトムアップです。


断熱等級4のPR事例

この基準が見直される前から、断熱性能に関しては巷ではUA値を基準に比較されてきており、すでに「断熱等級4」という数字自体が高性能を推進する工務店からすれば、「当たり前すぎる基準」になり下がっていました。


まだまだローコストビルダーの広告チラシなどでは、「最高等級の断熱等級4取得!」と堂々、PRしている会社もあります。


しかし、このPRは例えるなら「この車はアクセル踏んだら進みます!」と、堂々とPRしているようなレベルで、当たり前に達成できていて当然のレベルです。


このように「基準自体が低いレベル」であることから、一部のローコストビルダーなどが甘んじて、省エネ住宅の浸透率が進んでいない状況もあります。


もう1つは、政府としても脱炭素政策を推し進める中で、住宅におけるエネルギー消費量を加速的に削減する必要性が上がってきたことです。


気候サミットを踏まえた主要国の排出目標

出典:資源エネルギー庁・資料


2020年10月に、当時の菅首相が2050年までにカーボンニュートラルを達成し、温室効果ガスの排出を社会全体でゼロにする、と宣言をしています。


この目標に対して、産業部門・運輸部門・業務部門、そして家庭部門それぞれで、CO2削減の取り組みが進められています。


その通過点として、直近では2030年における削減比率を、46%へと高めていく宣言を行っています。


住宅もさらなる省エネ化をスピードをあげて推進していくのにあたり、こういった断熱性能の見直しから業界全体の底上げを図る動きが活発化しています。



3. 地域・プランによって適切な断熱性能がある

さて、今回の記事で本当にお伝えしたい内容はこちら。


「地域や間取りによって適切な断熱性能を見極める」という部分です。


最高等級ができると、その最高等級にしないと自分の家が劣っているかのように思ってしまう方もいるのではないでしょうか。


しかし、私は必ずしも最高等級をオススメしない、と断言します。


理由は2つあり、1つは地域性によっては「完全に過剰スペックであること」


そしてもう1つは、「コストが一気に上がってくる」ということです。



3-1. 断熱等級7は完全に過剰スペック(一般地)

巷の「性能オタクさん」には怒られそうな内容ですが、私が経験や体感として感じることができるレベルを考えたときに算出した結果です。


もちろん、北海道レベルの寒冷地では断熱性能が、より効果を発揮することは言うまでもありません。


しかし5~7地域の、一般地(東京や大阪など)にお住まいの方であれば、断熱性能7は不要です。


理由は「G3まで断熱性能を上げても、もはや普通の人は分からない」からです。


いや、私は分かる!という方は高断熱を目指していただいて問題ありませんが、客観的データから、そのように言い切る理由をみていきましょう。


断熱性能に差による冷暖房設備の効きについてのアンケート

毎年、ZEH補助金を受けた人を対象に行っているアンケート調査「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業 調査発表会2021」からの資料です。


目安となる断熱性能と完全にリンクしているわけではありませんが、上図の表は「冷暖房の効きが悪いと感じたか?」と断熱性能を体感したかの質問です。


なお、こちらの質問は6地域(東京や大阪など)の方の意見をまとめた表です。


その質問に対して、夏と冬の体感を見ると、


・夏:ZEHレベル~HEAT G3グレードまでほとんど差がない


・冬:ZEH~HEAT G1グレードまでは似た傾向で、G2~G3の間もほぼ似た傾向に


この表から明確にわかる差は、冬における暖房の効きの違いです。


ZEHレベル~HEAT G1グレードまでは「あてはまらない」という層が約54%、「あまりあてはまらない」という層が約35%と均衡しています。


これにより、UA値 0.6~0.4では体感の差が出にくい、ということがわかります。


次に、UA値が0.4以下になってくると「あてはまらない」という層が約75%になってきます。


「あまりあてはまらない」という層も合わせると、約95%が断熱性能に満足している結果です。


G3グレードレベルの、UA値が0.28以下では満足の指数としては合計で98%になっています。


断熱性能としては大きく上がっているはずですが、満足度数としてはもう既に頭打ち状態になっていることが分かります。


私も、自身の体感・経験からしてもデータと同じような考えです。


夏はZEHレベルの性能があれば、冷房の効きは非常によく快適に過ごすことができます。


夏は、むしろ断熱性能ではなく日射や通風などを上手く活用していくべきでしょう。


冬は一般地域では、HEAT20のG1~G2グレード(断熱等級5~6)があれば、満足度としては十分であると思います。



3-2.断熱等級7(G3)はコストが一気に上がってくる
HEAT20設計ガイドブック

※出典:HEAT20設計ガイドブック・フェノバボードHP


2つ目の理由としては、やはりコストです。


当然、コストをかけて良い断熱性能にすれば快適性は増すでしょう。


しかし、世の中の大半の方が無尽蔵にお金があるわけではありません。


限りある予算の中でのバランスを考えていくと、体感できない断熱性能向上はもはや「自己満足」でしかありません。


さらに、G2超え~G3グレードになってくると工法・使用する断熱材・窓サッシのコストが一気に上がってきます


工法としても外張り断熱を併用する、窓サッシも全ての窓をトリプルガラス+アルゴンガス入りの最上位グレード、といったような品揃えをしないといけません。


リビングの大きな窓だけ、トリプルガラスを使ったりするなど、適材適所での判断のもと仕様を変更してバランスを取っていれば良いと思います。


ただ、断熱等級7を取得しようと思うと大きな窓は作れない、といったプラン上の制約も出てくるため、家づくり本来の目的を見失いがちです。


コストとのバランスと、家づくりにおける本当の目的などを冷静に考えて判断しましょう。



4.まとめ

以上のように、筆者が考える一般地での最適な断熱等級は、5~6程度に留めておくことがよいでしょう。


みなさんの価値観もあると思いますので、総合的に判断して最善の家づくりの参考になさってください。


最後に、冒頭にお伝えしたまとめポイントを復習しておきます。

・今までは断熱等級4が最高でしたが、5~7のランクが設定され断熱等級7が最高等級に


・断熱等級6ではHEAT20のG2グレード、断熱等級7はHEAT20のG3グレード。


・2022年秋ごろから断熱等級6・7は正式に運用される見込み


・一般地域では断熱等級5~6がコストバランスが良い断熱レベル。

 正直、寒冷地でなければG3グレードまではコストバランスが悪くなってくる。










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